社長のブログ

<プロフィール>大手不動産会社で長年、オーナー様に対して不動産の有効活用を企画、提案する業務に従事。札幌支社から福岡支社への転勤を契機に独立。平成11年(株)福岡シティを設立、現在に至る。趣味は歴史。司馬遼太郎記念館友の会会員。

<映画『ファーザー』を観て>(令和3年5月31日)



「Kinecinema 天神」で映画『ファーザー』を観ました。

一週間ほど前、「T・ジョイ博多」で友人と観ることにしていたのを緊急事態宣言の延長をうけて止めたのですが、やっぱり観たいと思って一昨日の昼間、仕事の合間を縫って一人で観てきました。

 

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ファーザー



 この作品は、認知症の父親と父親の介護に奮闘する一人娘の姿を通して、認知症という高齢化社会の課題を描いた意欲作です。

81歳の頑固な父親役は『羊たちの沈黙』の名優アンソニー・ホプキンス、娘のアン役は『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンで、ロンドンが映画の舞台です。

 

この映画は認知症である父親の視点から描かれているため、記憶の混乱や妄想が入り込んで、物語の事実関係や時間軸があいまいで分かりにくい面もあるのですが,これは映画を見る人に認知症患者の心象というものを体験的に理解させようとする絶妙の演出なのでしょう。

 

 

アンは父親の介護が手に余って、父親を養護施設に入れてパリの恋人のもとで暮らすことになるのですが、施設への入所を拒否する父親に対してアンは「その方がお互いのためなのよ」と言って説得します。親子の絆とお互いの人生を守るには父親を施設に入れるしかないというのがアンが下したギリギリの結論でした。

 

終盤に、介護施設の室内に舞台が移ります。

喪失感に苛まれて、葉っぱが一枚一枚失われていくようだと言って泣きじゃくる父親。娘の前では見せなかった弱さをさらけ出す父親。その父親を優しく抱きよせる施設の介護人の女性。

これから介護人と散歩に出る公園には青々とした木の葉が茂っています。これからの日々は散歩と木の葉を眺めることが彼の日課となるのです。一人娘は近くにいなくてさみしいけれど優しい介護人と木の葉を眺める彼の新しい人生が始まるのです。

風に揺れる豊饒な木の葉の映像をエンディングにすることで父親がこれから迎える生活がある意味では穏やかで、満たされた日々になりうることを暗示しているように私には思えました。

 

アンソニー・ホプキンスの迫真の演技は見ものです。劇場で多くの人に観て欲しいと思いました。