「うわさ話と妄想」(令和4年11月1日)
昨日、趣味で蒐集している新聞の切り抜きの一部を整理して読み返したのですが、精神科医の大野 裕氏のコラム『こころの健康学』の記事がとても印象に残りました。
大野氏によれば、精神疾患のない普通の人達が、事実を確認もしないで、うわさ話に熱中している精神状況と、精神疾患のある患者さん、例えば統合失調症の患者さんが妄想にとらわれて、現実には起きていないことを起きているかのように思い込む精神症状とは、共通性が見られ、基本的に同じで、妄想による「誤った思い込み」は精神疾患の患者さんに特有なものではなく、健常人にも、うわさ話に熱中している時などに、日常生活で普通にみられる「症状」だそうです。
大野氏のコラムを読みながら、作家の曽野綾子さんもうわさ話のことを取り上げておられたことを思い出して、その本(『人間関係』)を引っ張り出して再読しました。以下にその一部を転記します。
「人間関係の上で、極端に迷惑な第一のものが噂である。しかし、人間は、ことに女性は心底噂が好きだ。噂は八、九十パーセントが間違いだ。間違ったことを元に、人は何かを喋っている」「しかし、たいていの噂話は、その根底に相手の不幸を望む要素が含まれている。要素はさまざまあるが、噂は相手を陥れたい気分の変形であることが多い」。
「もし世間が、ことに女性たちが、噂話というものをやめれば、日常生活の不和はほとんどなくなるだろう」。
大野氏は精神科医の立場から、また曽野さんは作家の視点で、うわさ話の問題を取り上げられたのは、お二人が、うわさ話では真実でないものを真実のように語られることが多いので、特にリアルと虚構の境界があいまいな現代社会においては弊害が大きいと考えられたからでしょう。
世間で語られたり流布されている事柄を、鵜呑みにせず、「本当だろうか?」と自分で考えて、意識的に真実と向きうことによって初めて、私たちは妄想から解放されて健康な心と健全な人間関係を維持することができるのではないかと思いました。